第37話
デカレンどころか戦隊ものの中でもこれほど救いのない話は
ないんじゃないかという話。
何回見ても泣けてきますが、演出やストーリー展開の重さに
鳥肌も立ちます。
デカレンジャーの中では個人的にベストな話ですね。
本話はラストシーンが怪奇大作戦の「京都買います」のオマージュなのは
よく指摘されますが、ストーリーそのものは「死神の子守唄」。
確信犯的に怪奇大作戦をリメイクしたと言っても過言ではないでしょう。
脚本家の荒川氏によると「非情のライセンス」をやりたかったようですが、
プロットは完全に怪奇ですね。
冒頭若い女性が襲われて殺されます。
チョウサンの回もそうでしたが、完全に刑事ドラマの始まり方。
踏切が赤く点滅する映像が印象に残ります。
ただ、血を吸い取る演出はホラーで、個人的にはレオの円盤生物シリーズ
(デモスとか)を思い出しました。
普通若い女性を襲うのは変質犯なのですが、動機が姉の病気を治すため
というのが「死神の子守唄」と被ります。
当然それは被害に遭う女性の立場を考えると許されることではないのですが、
そう簡単に割り切れないのが肉親の情というもの。
刑事ドラマだと姉の手術代を稼ぐために弟が危ない仕事に手を出すとか、
そういうパターンになるでしょうか。
ウキウキのホージーとバンたちのコントで軽い雰囲気で始まりますが、
軽いのはここまで。
この後はとても日曜の朝の子供向け番組とは思えない展開が続きます。
この話はリアルタイムでも見たのですが、これは本当に戦隊かと
目を疑いました(笑)。
個人的に子供向け番組で子供置いてけぼりは評価しない立場なのですが、
当時私は既に大人だったから固いこと言いっこなし。
紛れもなく神回だと思います。
この回は怪奇大作戦ですから(笑)。
ところでトッキョウ試験って案外猛勉強で受かるものなんですね。
どういう仕組みなのでしょうか?
何故かこの辺り公務員的というか現実の昇進試験的でちょっと笑いました。
トッキョウって知識よりも実技重視の気もしますが、まあ仮に実技やっても
テツより射撃は上、不得手だった格闘もファイトクラブで克服してますから、
テツより劣ることはないでしょう。
ただ、最後の課題が実地の事件を解決ってどうなのってのはありますね。
実際の警察でそんなことしたら避難轟轟です。
事件はちゃんとみんなで全力で解決しないといけません。
今まで女性に手が早いところは描いてきたのでホージーがいきなり
バーの歌手を口説いていてもそれほど違和感ありません(笑)。
テレサの弾き語る曲のイントロはやはりあの「死神の子守唄」を
彷彿とさせますね。
ただ、あれほど酷い歌詞ではありませんが(笑)。
曲調はやはり70年代的というか特捜最前線的。
というか「私だけのぬくもり」って完全に「私だけの十字架」を
意識してますよね(笑)。
マイク星人テレサ役の田中千絵さんはほんとうに美人でホージーが
惚れるだけの説得力があります。
因みにテレサはテレサテンからですね。
調べると田中さん、今は台湾で人気女優みたいですね。
正統派は日本では受けにくいので海外に行ったのは正解だったようです。
弟のクロード役の子は金八先生にも出てましたが、最近は見ないですね。
悲しい役どころを上手く演じていたと思います。
クロードがホージーを敵視するのはホージーが刑事だから。
そりゃバレたら逮捕ですからね。
この後女性が襲われるシーンに移るのですが、大人向けならこれは騙しですが、
子供向けですから当然クロードが犯人です。
まあ本話に犯人が誰かなんてのは重要な要素ではありませんからね。
大事なのは動機です。
テレサを送っていくホージー。
しかし二人が住んでるマンションがヤバい。
今時こんなマンションに二人暮らしって。
貧しいにもほどがあるというか、完全に70年代です(笑)。
部屋の前にある洗濯機も若しかしたら二層式?
事件が発生して現場に駆け付けるデカレンたち。
怪我を負わせて逃げられるのは刑事ものの定番ですね。
犯人が広域指定事件の凶悪犯ということでホージーの最終試験も
この犯人の逮捕ということになりました。
いや、広域指定の事件を一人で解決はどうなんでしょう?
被害が拡大する危険性もあるというのに。
まあ、テツも最初一人で事件を解決しようとしてましたので、
宇宙警察にも縦割り意識はあるのかもしれませんね。
怪奇大作戦との一番の違いはトッキョウの昇進試験が掛かっている点。
まあプロット的にはそれほど重要な要素ではありませんが、物語の悲しさを
際立たせるという点ではとても効果的でした。
しかしスタッフはどこまでホージーをいじめたら気が済むのでしょうか(笑)。
犯人がマイク星人の男性と聞いて思い当たるホージー。
まあ、マイク星人なんか地球にそんなにいないでしょうからね。
日曜の朝からテレサの悲し気な歌が響きます。
苦しそうに咽ぶテレサ。
そこへ戻ってくるクロード。
物凄い悲壮感漂う展開です。
クロードが摘んできたという花は若い女性を殺して得たエキスが含まれたもの。
死神の子守唄の吉野と同じように非道な人体実験に手を染めるクロードですが、
そのエキスが姉の病気に効くことを確認して喜びます。
「本気になってもいいの」。
幸せそうなテレサの表情が余計に悲しみを際立たせます。
そこへホージーがやってきて前半終了。
ホージーに姉の病気のことを話すクロード。
クロードの医者設定は姉の病気を治すためと思ってたのですが、先に
医者になってたんですね。
ここでテレサが倒れる演出が変なんですが、まあいいでしょう(笑)。
鉱山惑星ガイガミラ。
ガイガーカウンターのガイガーですね。
さすがにこの時代原爆の被ばくは無理ですし、被ばく問題がデリケートなのは
セブン12話で実証済みですので、鉱山の放射線と上手く誤魔化した感じです。
でも福一事故の後ではもう無理な設定でしょうね。
ここからまた踏切が赤になる映像が挿入されます。
姉の余命が短いことを告白するクロード。
ここで電車がタイミングよく走ってきます。
というか、そこまで合わせて演技させるところが凄い。
「俺がやるしかないんだ」と走り去るクロード。
この辺りは吉野と同じこと言ってますね。
国家がどうとかアメリカがどうとか、佐々木守イズムはありませんが(笑)。
簡単に重要参考人を逃がしてしまうホージー。
完璧なホージーでも愛する人の命が短いのと弟がそのために犯罪を
犯してるのは相当ショックだったのでしょう。
愛する人の弟が犯罪者でデリートしないといけないだけでも辛いのに、
その動機がなんと愛するテレサを助けるためだったとは。
怪奇大作戦よりさらに救いがありませんね。
逃走中に若い女性を見つけたクロードですが、その女性が弟の靴ひもを
結んであげるシーンを見て姉と重ねてしまいます。
全ては姉を助けるため。
自分を養って、そのため体を壊した姉を思うクロードの気持ちもわかります。
ここでまたまたテレサの歌。
今回はほぼこの曲だけで引っ張っていくところが凄いです。
テレサの部屋の前で連絡を受けたホージー。
遂にクロードをデリートする決意をします。
刑事だから当然とはいえ悲しい決断です。
仕事に出かけるテレサ。
鳴り出す雷鳴。
赤い傘を持って出かけるテレサ。
赤に拘る演出が泣けますね。
若い女性を襲おうとするクロードを制止するホージー。
ここで口笛風のBGM。
チョウサンの時も流れた曲ですね。
ジャッジメントをするホージーですが、この演出が信号が青から赤に
変わるというもの。
直接ジャッジメントを見せないのが上手いですね。
そして同時に振り出す雨。
雨は人工的に降らせてるのでしょうか?
演出に力が入ってます。
クロードをデリートするとテレサも助からない。
それでも「俺はデカなんだ」とホージー。
逃げ出すクロード。
火を噴くディースナイパー。
人だかりの中クロードの亡骸を見つけるテレサ。
銃を持って立ち尽くすデカブルー。
全てを悟るテレサ。
テレサも薄々弟がヤバいことしてるって気づいてたんでしょうね。
駆けつけたメンバーが見たものはアリエナイザーに縋りついて泣く女性と
立ち尽くすホージーの姿。
何て救いのないシーンでしょうか。
結局トッキョウへの昇進を断るホージー。
愛する人の弟を殺して得たバッジはやっぱり重すぎます。
行方不明になるテレサ。
最後テレサが死なないところが「死神の子守唄」と違うところですが、
その原因がクロードの治療じゃなくて生きたいという思いだとしたら
余りにも皮肉なラスト。
いい話にしようとして返って失敗してる気がします。
じゃあ、クロードがやってたことってただの徒労?
つくづく救いがありません。
ここでまた例のクラシックギターのBGM。
そしてクロードの墓参りへ行くホージー。
そもそもこの墓は誰が建ててそれをホージーは誰から聞いたんだというのは
スルーして、とどめのラストシーンへ。
尼になったテレサと再会するホージー。
まあ、「京都買います」なんですが、あちらと比べると演出がやや雑ですね。
話の組み立てとか構成はこちらの方がよくできてますが。
それでも見つめ合う2人のシーンは泣けます。
無言ですれ違う2人。
そしてそのままクロードの墓へ向かうホージーの背中でドラマは
終わります。
ナレーションもなしでSPDとは。
テレサが尼になったのは、罪の意識からでしょう。
自分のために犯罪を繰り返したクロード。
さらには犠牲になった女性たち。
自分のせいで多くの人間を不幸にしてしまった。
自分だけ幸せになるなんてできませんから。
また自らも快方に向かってるとはいえ、そう長く生きられる保証もない。
この後味の悪さは異常。
原爆とか絡んでない分、余計に救いがないように見えます。
誰が悪いとかないですからね。
本話はホージー役の林さんも言ってましたが、戦隊でこれをやるのかと
衝撃を受けたとか(笑)。
確かに子供向けではありませんからね。
ただ、私自身の子供時代を思い返してみますと、小学3,4年くらいでは
普通に刑事ドラマの再放送とか見てた気がします。
小学高学年だとハングマンとか仕事人も見てましたからね。
意外と子どもって大人向け見てもわかるものです。
さすがに幼稚園児だとわからないでしょうが、意外と子どもって
侮れませんからね。
市川森一のヒーローの定義にヒーローは試されるものというのがありますが、
ホージー回はその要素が一番強いですね。
悲哀を背負ったヒーロー。
でも石ノ森ヒーローのように自分の出自や宿命という内発的な試練というより、
普通の人間が受ける外発的な試練というのが円谷的かなと思います。
ウルトラシリーズの脚本を書きたくてこの世界に入ったという荒川氏の
円谷リスペクトを感じる作品。
そして「非情のライセンス」に通じるハードボイルド。
戦隊で刑事ものをやるならここまでやらなきゃというスタッフの意気込みが
感じられる神回です。
デカレンジャーを代表する1本なのは間違いないでしょう。
で、次は中川翔子登場ですが、それは稿を改めて書きます。
ではでは。